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臨床医、研究での経験を活かした製薬企業での新たなチャレンジ

個別化医療における薬剤の導入や、医薬情報提供活動をめぐる規制の強化などを背景に、高度な専門知識を有する医師を製薬企業が採用するケースが増えている。だが、医師側にとっては、勤務環境や業務内容など、未知の部分が大きい。そこで、製薬企業勤務の医師としてのキャリアを歩んでいる武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)の添田純平氏に、業務内容や転職の経緯、やりがいについて伺った。

薬剤のエビデンス創出からマネジメントまで、幅広い業務に従事

ーーまずは武田薬品での現在の業務内容を教えてください。添田:日本オンコロジー事業部※で、臨床試験を通じて薬剤のエビデンスを創出したり、メディカルニーズや薬剤開発の方向性を引き出すためのディスカッションを行ったりしています。医師の目線から薬剤に関する情報活動用資材の内容をチェックや、MRの教育指導の業務を手がけることもありますね。管理職として、メンバーのマネジメントも行っています。

ーー幅広い業務を手がけているのですね。どういった方と一緒に働いているのでしょうか?添田:当社に所属している他の医師はもちろん、研究開発部門や人事部、法務部などのコーポレート部門、また、MRの教育に携わることもあり、臨床医として働いていたときには会う機会がなかったような部門のメンバーたちと、業務を通じて関わりがあります。

ーーとなると、臨床医とは全く違ったスキルが求められることになりそうですね。添田:おっしゃる通りです。ひとつは、コスト管理をはじめとするビジネス感覚です。また、ひとつのプロジェクトを進めるにもたくさんの関連部門のメンバーとコラボレーションする必要がありますので、そのネゴシエーション力は必要だと感じました。

英語でのコミュニケーション能力も必要です。臨床医時代も海外学会にて英語でプレゼンテーションを行う機会はありましたが、武田薬品に入社後は、提携会社や社内のグローバルチームとの会議など、日常業務において英語を使う機会が格段に増えました。

ーー製薬会社ならではの必須スキルは、どのように身につけていきましたか?添田:一から学んでいくという姿勢を心掛けました。病院と企業では、仕組みや制度面で異なることが多くあります。自分が知らないことを「教えてください」という姿勢で真摯に仕事に向き合っていれば、周りが助けてくれると思います。一方で、20名ぐらいの部下がいますので、人材マネジメントに関しては、外部の研修を受講することもしました。

企業=利益中心主義ではなかった。常に「患者さん中心」の考え方をベースに多くの患者さんを救えるのがやりがい

ーー逆に、臨床医としてのスキルや経験はどんなところに活きていますか?添田:あらゆるシーンで活かされていると感じます。医師との面談において、共通言語や同じ目線でディスカッションできることは大きいです。また、医学の専門知識は、新規の薬剤の理解を深める際や情報活動資材をチェックする業務に役立ちます。何よりも、実際に臨床の場で患者さんに接してきた経験は、自社製品が上市後、どのように患者さんに貢献できるかを考える際に、最も重要な視点になりますので、その視点をベースに社員にできるアドバイスもたくさんあります。武田薬品では、“Patient centricity-常に患者さんを中心に考えよう”というvalueに基づいて、社員が考え、行動をしていますので、自らの臨床医としての経験は、積極的に社員に共有するようにしています。入社する前に想像していた以上に、医師として臨床の場で積んできた経験が製薬企業のフィールドで活かされています。一方で、「患者さんのことを本気で考える」という点は、臨床医として働いていた時代から武田薬品へ転職後も一貫して変わらない点です。その想いを医療の第一線で働いていた時と同様、武田薬品の中でも、周囲のメンバーが同じ強さで持っている点はやりがいに通じます。

ーー勤務環境はどうでしょうか?添田:勉強するための環境がかなり恵まれていると思います。さまざまな薬剤の開発に関わる最先端の研究者とのディスカッションや、まだ薬剤として上市されていない化合物の最先端の情報を入手できる点は非常に興味深く勉強になります。また、各領域のいわゆるKOL(キーオピニオンリーダー)と呼ばれる医師とディスカッションする機会が多い点も私にとっては魅力に感じる点です。

ーー最もやりがいを感じるのはどういった点ですか?添田:臨床医のときは、薬を使うという立場でしたが、今は「薬を育てている」という点です。薬剤が必要とされる患者さんに適切に届けられることが大切です。その過程に関われることに非常にやりがいを感じています。臨床医の時に比べると患者さんと1対1の関わりがなくなってしまう点は寂しく感じますが、一方で自分の業務の先には多くの患者さんがいて、その患者さんに貢献できる可能性があると考えています。医師とのディスカッションの結果を社内の開発部門にフィードバックし、臨床試験に繋がった時や自社の製品が患者さんの治療に貢献できたことを医師からフィードバックしてもらった際には非常に嬉しいです。

製薬会社なら、臨床と研究の“いいとこ取り”ができると思った

ーーもとから製薬会社に関心があったのですか?添田:まったくそんなことはありません。医師になってから12年間ほどは、臨床医として医局で働いていました。そんな折、イギリスに留学する機会を得まして、現地で最先端の基礎研究に関わるうちにどんどん面白くなってしまい、6年間ほど滞在しました。長く基礎研究を続けると、「再度、臨床で役立つ仕事にチャレンジしたい」という気持ちが芽生え、これまで培ってきた経験を活かせるフィールドとして製薬会社という選択肢が思い浮かびました。当時からイギリスでは、医師が製薬会社で働くケースが非常に多く、実際製薬会社で働いた経験のある医師からアドバイスを受けることができたのも大きく影響したと思います。製薬会社ではこれまで経験したことのない新しい刺激が得られるのではないかという期待がありました。いわば、臨床と研究のいいとこ取りができると思ったわけです。

ーーそれ以後、転職活動を始められたと。添田:はい。いくつかの企業を検討させていただきましたが、武田薬品が打ち出していたメッセージの“Sense of urgency”、つまり「待っている患者さんがいるからのんびりしていられない」という感覚に強く共感しました。

ーー新しい道を進まれることに不安はありませんでしたか?添田:もう全てが不安でしたよ(笑)。企業で働くということや業務の内容がイメージできなかったので「スーツは何着くらい持っていれば安心か?」「普段はどんな格好で出社すればいいのかな?」といった瑣末な疑問も尽きませんでした。しかし入ってみると周りの方が積極的にサポートしてくださったので、杞憂に終わりましたね。

最先端の分野に携われることが魅力

ーー今後のキャリアの構想についても教えてください。添田:今まで以上に、新しいことにチャレンジしていきたいです。製薬会社には多種多様な部門があるので、現在の部門だけでなく、幅広い仕事を経験していきたいと思っています。例えば、ボストンにあるグローバルオンコロジーの本部で、最先端の研究に関わりたい気持ちもありますね。

ーー最後に、「製薬会社勤務」という医師のキャリアについてどう思われますか?添田:今の職務においても臨床医としての経験を積んで専門性を身につけたことがベースになっており、自身が提供できる価値に繋がっていると思います。また、臨床医の時のように「先生」と呼ばれこともなくなりますし、いち社員として周りの人とフラットな関係で働くことを意識しています。そうした点を踏まえたうえで、好奇心を持って最先端の分野にチャレンジすることが好きな人にとっては、魅力的な選択肢だと思います。

臨床現場から離れてしまうことに不安を感じる方も少なくないと思いますが、武田薬品は、社外で医師としての臨床業務を続けることを推奨していますし、製薬会社で身につく薬剤の知識は研究や臨床の場面でも大いに役立ちます。興味がある方にとっては、その後どんなキャリアを歩むにせよ、製薬会社での業務経験は良い方向に作用すると思います。

日本オンコロジー事業部についてGlobal Oncology Business Unitの日本部門として、2015年4月に日本オンコロジー事業部が発足された。グローバル組織との連携を通じて、変化の早い環境においてアンメット・メディカル・ニーズへの貢献に挑戦している。オンコロジーは、タケダの研究開発の4つの重点疾患領域(オンコロジー(がん)、消化器系疾患、ニューロサイエンス(神経精神疾患)、希少疾患)のひとつであり、力強い研究開発体制を通じて、革新的な医薬品の開発を目指していく。

添田 純平日本オンコロジー事業部 メディカルアフェアーズ部長

1996年信州大学医学部卒業後、同大学医学部付属病院第一外科、信州大学医学部助教、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン医学部研究室を経て、2014年4月武田薬品工業(株)入社、2016年4月より現職。