アクセシビリティ機能を有効化アクセシビリティ機能を有効化

時代の変化に対応できる組織へ〜「日本いのちの電話連盟」の今を支える

新型コロナウイルスの流行は、今まで考えもしなかったスピードで私たちの社会生活を変化させるきっかけとなりました。このような変化の中で、身体だけでなく心にも不調を感じた方も多いのではないでしょうか。そして、その変化はこれまで見えにくかった、セーフティーネットの届かないところで暮らす生きづらさを抱える人々が多数存在する、ということを明らかにしました。

武田薬品では、このような社会で生きづらさを抱える人々への健康支援を目的に、Takeda CARE Programを行っており、その一環として特定非営利活動法人日本NPOセンター(以下「日本NPOセンター」)を介して、「一般社団法人日本いのちの電話連盟」(以下「日本いのちの電話連盟」)に2022年から2年間の支援を実施しています。

日本で50年以上、人々の心の叫びに寄り添い続ける日本いのちの電話連盟が、現在どのような課題に直面し、今回の支援によって何を得ることができたか、日本いのちの電話連盟の常務理事・事務局長を務める佐合氏、日本NPOセンター常務理事の田尻氏、そして武田薬品で国内CSR活動を統括する吹田(当時)が語ります。


コロナ禍が浮き彫りにした課題

佐合:日本における「いのちの電話」の活動は、1971年にスタートしました。そして1977年に、この市民運動を全国展開するための中心組織として結成されたのが日本いのちの電話連盟です。2022年現在で加盟するセンター(相談者から電話を受ける組織で全国に展開している)は50となり、約5,800名の相談員が活動しています。相談員はそのすべてがボランティアで、皆、仕事や子育て等の中でセンターでの活動を生活の一部として組み入れながら活動しています。

田尻:「いのちの電話」は、とてもボランタリー精神あふれる組織だということですね。しかし、運営に関しては、すべてボランティアが担っており、その結果、センター毎にその活動形態や内容に差があるのは課題かと感じました。

佐合:相談員は、ボランティアといっても、約1~2年間の電話相談に関する研修を終了し、認定されてからの活動となります。私たちの使命は、人々が一人で抱えきれぬ想いを受け止めること。生きる望みを失いかけた人々に、なんとか踏みとどまってほしい、という想いで電話を受けています。そのためにも相談員の継続研修は必須条件です。
しかし、日本いのちの電話連盟をはじめ、各センターはそれぞれ独立した組織です。したがって、各組織が独自で資金を集めて活動の基盤をつくり、有志の相談員で運営しています。そのため組織基盤は弱く、これを改善したいという願いが長年ありました。

吹田:武田薬品は創業以来240年以上の歴史があり、いのちや健康に関わる会社として存続してきました。現在、私たちは人間中心のアプローチをCSRのポリシーとしており、患者さんだけではなく、広く社会の人々の健康を視野に入れています。そこで私たちは社会に潜む「生きづらさ」に着目しました。これについて、以前よりさまざまな活動でご一緒している日本NPOセンターに相談したところ、日本いのちの電話連盟の抱える課題について共有いただきました。それは、50年以上にわたり生きづらさを抱える人々を支え続けている組織であるものの、組織基盤が弱く、コロナ禍でさらに厳しくなっているというものでした。

中長期的な支援で組織の基盤整備と強化を図る

佐合:新型コロナウイルスの感染拡大により行動制限が設けられたことで、私たちの活動は大きな困難に直面しました。
各センターの事務所は、それほど広いスペースではないため、複数の相談員が稼働すると必然的に密の状態になってしまいます。これを抑えるには、相談員の行動を制限せざるを得ません。その結果、コロナ禍で社会が疲弊する中、多くの方から「いのちの電話」へ連絡いただくも、すべての電話に対応することができませんでした。また、継続的な相談員の研修も実施できず、全国のセンターとの連携やサポートが滞る事態にもなりました。
行動制限が緩和された後も、活動に戻ることのできない相談員がおり、状況の改善には非常に時間がかかると覚悟するほどでした。

吹田:今回の日本いのちの電話連盟支援プロジェクトは、2022年に本格始動しました。武田薬品は、これまでの経験から中長期的な支援活動の必要性を十分に認識していたので、本プロジェクトの支援期間を2年と設定し、日本いのちの電話連盟の組織基盤を整備・強化することで、相談員を通じて生きづらさを抱える人々への支援を底上げすることを目指しました。
その指南役として、武田薬品のような企業とNPOをつなぐ中間組織である日本NPOセンターに活躍いただくことになりました。

田尻:日本いのちの電話連盟がボランティアを基盤とした組織であるがゆえに、プロフェッショナルな相談員としての力量を持ち合わせていても、コロナ禍による行動(活動)制限につながったのだと思います。そんな中、武田薬品からお話を頂いた際に、いのちの電話の各センターの力量形成と同時に、日本いのちの電話連盟がどのように社会のニーズに対応していくか、この二段階でプランを練る必要があると考えました。
そこで、武田薬品から日本いのちの電話連盟への支援に基づき、2年という期間を有効に活用し、ICT(Information and Communication Technology)の活用など緊急性の高いものから段階的に進め、これまでに全国に50あるセンターの足並みを揃えるための研修等を実施することができました。

組織や地域ごとの課題に対する目線合わせから始める

吹田:最初は広報の研修をオンラインで実施するとのことで、私たちも参加させていただきました。武田薬品は寄付を拠出する立場にありますが、単にお金を出して終わりではなく、自ら現場に赴き支援の現場を一緒に見聞きすることが重要であると考えています。私たちの言う中長期的な視野には、その期間で必ず現場と接点を持ち、ニーズを正しく理解することも含まれています。

佐合:オンライン研修も、最初は「本当にできるかな?」と不安がありました。ICTの知見に乏しい私たちに対して、日本NPOセンターが親身になってレクチャーしてくださり、何度も説明していただけたので、私たちにもできるという自信につながってきました。

田尻:各センターの力量を底上げし、ある程度の均一化を図ることが私たちの役割です。
たとえば、新しい取り組みを行っているセンターを支援し、それをオンラインで共有することで全国的な活動につなげるなど、さまざまな情報を見聞きできるチャンスと考えて取り組みました。

佐合:武田薬品のような企業が、顔の見える形で支援してくださるのは、本当に心強いです。私たちの活動を、武田薬品の従業員の皆さんに知っていただく機会にもなったと思っています。
また、一時は減ってしまった相談員も徐々に増えてきており、各センターとオンラインでつながる環境が整ってきたことで、活動の幅が一回りも二回りも広がったと実感しています。

吹田:いま世界では、これまで想定もしなかったことが次々と起きています。そういう状況でこれまでのやり方ではなく、組織や地域ごとの課題に対する目線合わせから始め、互いに高め合う意識を可視化する支援ができることこそ、本プロジェクトで得た私たちの気づきであり、今後につながる価値ある知見であると考えています。こうした活動の意義を社内外に広め、これからも多くの人々に良いインパクトを届けられる活動を支え続けたいですね。

いのちの電話とは

「いのちの電話」は、様々な困難や危機にあって、自殺をも考えておられる方の相談電話です。電話に加えてインターネットによる相談活動も行っています。詳しくは日本いのちの電話連盟の公式サイトをご覧ください。

一般社団法人 日本いのちの電話連盟 公式サイト
https://www.inochinodenwa.org/