iPS細胞技術の臨床応用に取り組むT-CiRAの研究者たち

T-CiRAは、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)とタケダの10年間にわたる共同研究プログラムです。T-CiRAでiPS細胞技術の臨床応用に向けた最先端の研究に携わり、患者さんへ革新的な治療方法を届けることをめざして不屈の精神で再生医療や創薬の開発に取り組んでいます。

“不屈”の精神と“遊び心”で腸疾患の細胞治療に挑むーー 山下 輝芳 (やました てるよし)


脊椎動物には「神経堤細胞」という発生・成長に重要な役割を担う細胞があります。多様な組織の細胞へと分化する能力を持つことから、細胞移植治療への応用が期待される存在となっています。私は、すでに過去の研究で確立されたiPS細胞から神経堤細胞をつくる技術を活用して、iPS細胞由来神経堤細胞から腸管神経をつくるNeural Crest Cellプロジェクト*の一員として、先天的な腸疾患の細胞治療につながる創薬に取り組んでいます。

入社したのは2008年。学生時代に体細胞クローン技術を学んでいたことから、薬剤安全性部門である開発研究センターの生殖発生毒性グループに所属しました。そこで薬剤安全性評価を行う一方、試験管内でもっと簡単に生殖発生毒性を観察することができないかと考え、ヒトのiPS細胞を神経堤細胞へ分化させる過程で化合物を加えて、ヒトにおける薬の影響を予測する研究をしてみようと思い立ちました。研究者が自らテーマを提案し、研究予算を獲得できるTEC(Takeda exploratory challenge)に応募したところ、2014年に承認され、業務であった生殖発生毒性研究から派生した新しいアイデアに取り組むことができました。若手の研究者にアイデア実現のための機会と予算を提供してもらえたことが、自ら興味を持つテーマを掘り下げるエネルギーになり、今の神経堤細胞の研究をさらに進展させることができました。

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実験はうまくいくことの方が少ないものですが、そんなときに支えになるのがタケダイズムの「不屈」の精神です。うまくいくという確信があるなら、諦めずに試行錯誤を繰り返します。一方で、イノベーションを起こすためには遊び心も欠かせません。既成概念にとらわれず、誰も考えたことがないような変わった組み合わせを試してみると、意外にうまくいったり、ヒントを得られたりすることもありますから。

*ヒトiPS細胞由来神経堤細胞を用いた新規基盤研究と創薬・再生医療への応用研究

「好きこそものの上手なれ」

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好きなことに向かっているときこそ一番エネルギーが湧くものです。たとえ王道から外れていても、好きなことをどんどん進めるうちにオリジナルなものができると思っています。


山下 輝芳 (やました てるよし)

CiRA池谷真准教授の論文情報を参考に神経堤細胞の分化誘導に成功。自ら研究テーマを提案し、研究予算を獲得して進めることができる研究所内プロジェクトTECに応募し神経堤細胞の研究をさらに推し進める。現在はT-CiRAのNeural Crest Cellプロジェクト*で、iPS細胞由来の神経堤細胞を活用した細胞治療という新しい治療法の開発に臨む。

免疫細胞療法を牽引するフロントランナーにーー 葛西 義明 (かっさい よしあき)

 

iPS細胞からつくる免疫細胞を治療薬として使う免疫細胞療法のプロジェクトで、タケダ側の研究リーダーとしてメンバーとディスカッションし、研究の進捗状況やデータを確認しつつ、次に取るべき行動を決めています。免疫細胞療法では、患者さん自身の血液からT細胞を取り出し、遺伝子医療の技術を用いて改変した後、自家移植するCAR-T細胞療法がここ数年注目を集めています。ただ、改善効果が高い一方で、オーダーメイドであるため、細胞を調製する時間と多大なコストがかかるのが課題でした。そこで我々がめざしているのが他家移植です。iPS細胞から大量生産した免疫細胞を移植できるようにして、患者さんの経済的な負担を軽減するとともに、移植までの待ち時間を短くすることで、将来的には患者さんの治療オプションのひとつとなることを考えています。

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プロジェクトの一員となって、T-CiRAだからこそ可能な研究規模やスピードを実感しています。実際、現在力を入れているiPS細胞由来のCAR-T細胞療法は、血液がん患者さんにとって画期的な治療法になると期待されています。2020年5月に、臨床試験に用いるiPS細胞由来CAR-T細胞の製造を京都大学iPS細胞研究財団が受託する契約が締結されました。再生医療が一日も早く医療現場に提供されるよう、私たちはiPS細胞を用いた免疫細胞療法のフロントランナーとして邁進しています。


T-CiRAという職場の特徴を一言で表すと多様性でしょう。京都大学の先生方と「同じ釜の飯を食う」ような形で共同研究を進めていますし、新しいサイエンスには多岐にわたる専門性が求められるので、タケダの研究員も多彩なキャリアを持つメンバーが集まっています。また、グローバルな展開を進めるためにボストンの研究チームとも密に連携しています。こうした多様性に満ちた環境の中で、仕事の進め方やリーダーシップとは何たるかを学びながら、研究者としてだけでなく、社会人としても大きく成長できていると実感しています。

「迷ったら前へ」

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プロ野球監督だった星野仙一氏の名言です。研究においてもチームリーダーとしても迷うことはたくさんありますが、後ろ向きにならず、前に進むことを判断の指針にしています。


葛西 義明 (かっさい よしあき)

CiRAの金子新准教授と共同でiPS細胞由来のT細胞を用いた新しい免疫細胞療法の開発に挑戦するタケダの研究チームリーダー。現在、最も力を入れているのが血液がん患者を対象としたiPS細胞由来CAR-T細胞療法で、早期の臨床試験を目指している。

フレキシブルワークで最先端の研究と子育てを両立—— 山添 則子 (やまぞえ のりこ)


私はⅠ型糖尿病の新しい治療法として、iPS細胞からインスリンを分泌する膵島様細胞をつくり、治療に活用する細胞治療の研究を進めています。この研究のカギは、人間の胎内で何カ月もかけてつくられる環境を試験管の中で再現することにあります。ですが、その条件や因子の組み合わせは無限にあるうえに、元となる細胞の状態がわずかに異なるだけで、同じ操作をしていても作製した細胞の品質が変わってしまいます。そのため、トライアンドエラーを繰り返しつつ、何万通りもある条件の中から安定した作製方法を探り出します。1つの条件を試すだけでも1カ月かかりますが、芽が出そうな方法は、さらに半年にもわたる薬効評価試験での評価が必要です。それだけに、成果が見えたときの喜びはひとしおです。

研究者として常に意識しているのは、迷ったら「患者さんにとって何が一番いいか」という原点に立ち戻ること。これはタケダで引き継がれているタケダイズムの考え方そのもので、常に心に留めています。そうすると、自ずと選ぶべき道が見えてくるのです。膵島移植を待つⅠ型糖尿病患者さんに対し、高い安全性を確保したうえで、より使いやすい、治療負担が少ない治療方法を届けたい、という初心に戻ることができます。また、視野が狭くならないよう、研究室から一歩出て他部門の研究者たちとコミュニケーションを図ることも大切にしています。雑談の中で新たな発想が生まれたり、違う切り口に気づいたりすることもありますから。

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私生活では、現在8歳と5歳の息子がいて子育てにも大わらわの毎日ですが、在宅勤務が行えるシステムが整備され、柔軟に働けるので業務時間をより効率的に使うことができています。そのため、責任のある仕事にも積極的にチャレンジできるようになりました。

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また、子どもと一緒にいる時間が増えて、自分も子どももそれぞれのペースを守りながら時間を共有できることが、さらなる仕事へのモチベーションにつながっています。働きやすい制度や同僚の理解とサポートに感謝しながら、より早く安全な細胞治療薬を患者さんに届けることができるよう研究に取り組んでいます。


「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」

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研究を進めたり、仕事と育児の両立をする中で、いくつもの壁に突き当たります。失敗を恐れず壁に挑んでいけるよう、自分を奮い立たせるための言葉です。


山添 則子 (やまぞえ のりこ)

入社後、iPS細胞から膵β細胞を作成する研究に参加。T-CiRA Beta cell プロジェクト(1型糖尿病に対する細胞医療の研究)でも引き続き膵β細胞の中心研究者としてCiRAの豊田太郎講師と共に研究に勤しみ、iPS細胞由来の膵島様細胞(iPIC)の作製に成功。デバイスと組み合わせて臨床応用をめざしている。