力を持つ組織は個々のパッションが引き立つ ― その思いを直に受け取るフラットな関係構築 | 武田薬品
力を持つ組織は個々のパッションが引き立つ ― その思いを直に受け取るフラットな関係構築
岩下圭二
ジャパンファーマビジネスユニット 医療政策・ペイシェントアクセス統括部長
大学卒業後、タケダに入社。医薬情報担当者(MR)や医薬外事業、渉外業務を経て、労働組合活動に専念。その後、内閣官房や経済同友会への出向を経験し、2015年から現職。
武田薬品工業株式会社
ジャパンファーマビジネスユニット
医療政策・ペイシェントアクセス統括部長
岩下圭二
タケダに入社して約37年、MRから渉外や労働組合活動、内閣官房への出向など、さまざまな立場で医療と社会に向き合ってきた岩下圭二さん。現在は、統括部長として制度・政策・疾患啓発・患者さん支援など多角的な活動を通じて、患者さんが必要な医療を受けられる環境づくりに取り組んでいます。社会に貢献する組織づくりとリーダーシップのあり方について話を聞きました。
――医療政策・ペイシェントアクセス統括部の業務内容について教えてください。
岩下:タケダの“社会への窓口”として、薬価および医療保険制度に関する情報収集・分析を行い、医療環境の情勢分析や業界団体・行政との連携、患者さん支援を通して、多面的なアプローチで患者さんが適切な医療を受けられるように貢献しています。さらに、これらの活動を通じて得られた知見をもとに、医療制度の持続可能性と公平性を高めるための政策提言を行い、社会全体の医療アクセス向上に寄与しています。
――幅広い機能がある部署ですが、どのように1つにまとめているのですか?
岩下:共通の課題意識を持つこと、社会全体への理解の醸成を促しています。例えばある制度によって疾患治療に必要な医薬品が患者さんに届きにくくなっているとしたら、産業政策チームは制度を全体的に見直すなかで、渉外チームは外部のステークホルダーと関わるなかで、ペイシェントサポートチームは患者さんと関わるなかで、課題を認識します。アプローチは異なりますが、共通した課題意識から各チームが課題解決に向け取り組みます。また、3カ月に1回は部署の全員が集まる会議を開き、各チームの状況などを共有しています。チームには、専門性の向上に加えて、ほかのチームの活動ひいては社会全体にも関心を持つように伝えています。私たちは、社会保障制度のもとで、医療の質とアクセス向上に貢献していますので、社会全体を見た俯瞰的な物事の理解が必要です。私はモットーとして、チームにも企業業績や経済情勢にも高い関心を持ってほしいと考えています。
――組織力を高めるために、リーダーとしてどのようなことを意識していますか?
岩下:組織の強さは、マネジメントの力によるものではなく、メンバー一人ひとりの力です。中でも特に重要なのが、パッション(情熱)です。私自身、薬価制度の改革提言を行うプロジェクトに参加した際、業界団体とコンセンサスをとって政府と交渉し、提言内容を実現させたという経験があります。「実現させたい」という強いパッションが成果につながりました。また内閣官房への出向では、官僚の人たちが「こうあるべき」「こう変わるべき」という強いパッションで議論し、努力を惜しまない姿を間近で見て、刺激も受けました。メンバーが何を成し遂げたくて、そのためにどんな努力をしているのかを把握し、達成できるように調整するのがリーダーの役割だと思っています。リーダーがメンバーのパッションを大事にすることは、それぞれが働きがいを実感することにもつながると考えています。業務運営は各チームのリーダーに任せながらも、組織運営の整合性は常に意識しています。
――メンバーが成し遂げたいこと、そのための努力については、どのように把握するのですか?
――労働組合や内閣官房での経験は、現在のマネジメントスタイルに影響していますか?
岩下:大きく影響しています。労働組合ではボトムアップ、内閣官房ではトップダウンを経験しました。多数決に頼りすぎることなく、それぞれの意見を尊重し、反映させるボトムアップスタイルを労働組合で経験しました。一方、内閣官房ではトップダウンスタイルを経験しました。私の政策提言がトップの決断でほとんどそのまま採用されるようなケースもあり、責任重大でしたので、提言するまでには十分な検討が必要でした。両方を経験して私がたどり着いたのは、最終的な意思決定は多数決ではなく、メンバーそれぞれの声を聞いたうえでリーダーが責任をもって行うというスタイルです。メンバーの意見に耳を傾けることができていたのか、日々振り返ることを大切にしています。
――リーダーとして壁にぶつかったとき、どのように乗り越えてきましたか?
岩下:困難に直面したとき、近道や裏道を選ばず、正攻法で取り組む姿勢を大切にしています。これはタケダイズムの価値観である「誠実:正直、公正、不屈」に通じる価値観です。社外の関係者との対話が多い当部署だからこそ、常に誠実に、真正面から向き合うことが大事だと考えています。
女性も男性も活躍するために、リーダーの行動が重要
――部署における女性メンバーの比率が大きく変化したと伺いました。背景にはどのような思いが?
岩下:着任当初、女性メンバーは1割未満でしたが、現在はリーダーも含めて半数が女性です。女性の就業継続や管理職登用、育児と仕事の両立支援などが政策の柱として強調されるようになった当時、私は労働組合にいたのですが、「女性自身は本当にそれを望んでいるのか」と、一歩引いたような考えでいました。しかし、その後の内閣官房や経済同友会への出向で、外部のリーダーたちと話すなかで、女性自身による活躍推進だけではなく、当時リーダーの多くを占めていた男性が推進しなければ、実効性に欠けるという考えに至りました 。経団連は「2030年までに役員に占める女性比率を30%以上にする」という目標を掲げています。タケダは率先して取り組むべきだと考えています。
――具体的にどのように取り組みましたか?
岩下:リーダー候補を育成する必要があったため、部署の中で新しいチームを作るときには、なるべく女性メンバーに積極的に入ってもらい、男性も含めて部署を担うリーダー候補を育成してきました。性別・国籍などの多様性のあるメンバー構成だと、発想が自由になり、互いに刺激を受けることが多いと感じています。
――医療政策・ペイシェントアクセス統括部では、今後の日本のヘルスケアのためにどのようなビジョンを持っていますか?
岩下:特に重要だと考えているのは、政策提言です。高齢化などによって社会保障の財政が厳しくなっているなかで、医薬品のアクセスを担保し続ける制度設計が求められています。タケダは日本製薬工業協会(製薬協)の会長会社として(2025年5月から任期2年)、業界をリードする立場にあります。政策提言を通じて、社会を変えていく責任にしっかりとこたえていきたいと思います。