京都大学iPS細胞研究所と武田薬品が創製した初のiPS細胞由来CAR-T細胞療法臨床試験に向けた新たなプログラムを開始

2019年7月16日

低コストで早期提供可能なCAR-T細胞療法によるがん治療を実現するためのiCARTプログラムを開始

京都大学iPS細胞研究所(所在地:京都市左京区、以下「CiRA」(サイラ))および武田薬品工業株式会社(本社:大阪市中央区、以下「武田薬品」)は、このたび、新たなプログラム開始に伴い、新規iPS細胞由来キメラ抗原受容体(CAR)1遺伝子改変T(CAR-T)細胞療法(iCART)に関する研究成果が、両社の共同研究プログラムであるT-CiRAから武田薬品に継承されたことをお知らせします。T-CiRAの契約条件に従い、武田薬品は本iCART製品の全世界における開発権と商業化権を有し、CiRAは開発の進捗や承認に対応したマイルストーン収入2を得ます。武田薬品とCiRAは引き続き連携し、2021年の first-in-human (FIH)試験実現に向け、iCARTプログラムを開始します。

CAR-T療法は、免疫細胞の一種であるT細胞の遺伝子を、特定のがん細胞を認識して破壊することができるように改変する、免疫療法の一種です。患者さんの血液からT細胞を取り出し、遺伝子を改変するという、現行の自家CAR-T療法は長い時間と多額の費用がかかります。

CiRAの金子 新(かねこ しん)准教授と武田薬品の研究者らのチームは、CiRAにおいて作製した「再生医療医療用iPS細胞ストック」3をもとにクローン化したiPS細胞を用い、患者さんにすぐに提供可能なCAR-T療法(iCART)をT-CiRA共同研究を通じて開発しました。本法は非臨床試験において、CD194を標的とするiCARTが強い抗腫瘍効果を発揮することが明らかになっています。

金子准教授は今後も武田薬品の社外アドバイザーとして、iCARTプログラムに関わります。本プログラムは、一種類のiPS細胞マスターセルバンクから均一な細胞製剤を大量生産する製法を開発し、現行のCAR-T療法よりも低価格で患者さんに提供することを目標としています。

<次世代CAR-T細胞療法に向けて>
CiRAの所長で、2012年にiPS細胞の開発者としてノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授は、「iCARTプログラムは、私たちのT-CiRA共同研究の価値を明らかに示すものです。本プログラムではiPS細胞技術を応用して創薬における新たなアプローチを開発し、有望なプログラムを武田薬品に引き継ぐための橋渡しを行うことで、臨床開発と実臨床での使用に向けた開発を加速することができます」と述べています。

武田薬品のリサーチ&デベロップメント プレジデントであるアンディ・プランプは、「本日、T-CiRAから細胞治療としては初めて、臨床開発に向けて一つのプログラムが武田薬品に継承されることとなり、山中教授、金子准教授とCiRAの皆さんと共に喜びを分かち合っています。iCARTプログラムは、私たちのTranslational Cell Therapy Engineを活用し、革新的な次世代CAR-T療法を世に送り出すという当社の熱意を示すものです。武田薬品は現在、12のCAR-Tプログラムを開発中で、iCARTの試験は、2021年までの実施を計画している5件のfirst-in-human試験の1つにあたります」と述べています。

武田薬品のTranslational Cell Therapy Engineは、Stefan Wildtをリーダーとし、細胞療法における発見を臨床現場に速やかに送りだし、新たな、差別化が可能な治療法の開発を加速する目的で結成されたチームです。本チームは、生体工学、CMC(化学・製造・品質管理)、分析、臨床およびトランスレーショナル研究の専門家が集まり、企業が直面することの多いプロセス開発や製造上の諸問題の解決に向け活動しています。

<T-CiRA(Takeda-CiRA Joint Program for iPS Cell Applications)について>
CiRAと武田薬品の10年間の共同研究プログラムで、2015年に設立、2016年より研究活動を本格始動しました。武田薬品が200億円の提携費用を提供し、CiRAの山中伸弥所長の指揮のもと、CiRAおよび他研究機関の研究者のリードによる複数のプロジェクトを実施しています。具体的にはがん免疫療法、心不全、糖尿病、神経精神疾患、および難治性筋疾患などの疾患領域におけるiPS細胞技術の臨床応用に向けた最先端の研究を行っています。

<京都大学iPS細胞研究所(CiRA)について>
CiRAは、国立大学法人京都大学の附置研究所として2010年4月1日に設立されました。世界初のiPS細胞に特化した先駆的な中核研究機関として、再生医療や創薬といった医療応用の実現を目的としています。山中伸弥所長のもと、約30の研究グループが基礎研究、応用研究、倫理研究などに取り組んでいます。詳細については、www.cira.kyoto-u.ac.jpをご覧ください。

<武田薬品について>
武田薬品工業株式会社(TSE:4502/NYSE:TAK)は、日本に本社を置き、自らの経営の基本精神に基づき患者さんを中心に考えるというバリュー(価値観)を根幹とする、グローバルな研究開発型のバイオ医薬品のリーディングカンパニーです。武田薬品のミッションは、優れた医薬品の創出を通じて人々の健康と医療の未来に貢献することです。研究開発においては、オンコロジー(がん)、消化器系疾患、希少疾患およびニューロサイエンス(神経精神疾患)の4つの疾患領域に重点的に取り組むとともに、血漿分画製剤およびワクチンにも注力しています。武田薬品は、研究開発能力の強化ならびにパートナーシップを推し進め、強固かつ多様なモダリティ(創薬手法)のパイプラインを構築することにより、革新的な医薬品を開発し、人々の人生を豊かにする新たな治療選択肢をお届けします。武田薬品は、約80の国および地域で、医療関係者の皆さんとともに、患者さんの生活の質の向上に貢献できるよう活動しています。
詳細については、https://www.takeda.com/jp/をご覧ください。

以上



1キメラ抗原受容体(CAR)
英語でChimeric antigen receptor。特定のタンパク質を持つがん細胞に結合することができる人工的に作られた受容体。免疫細胞の一種であるT細胞に導入されると、T細胞が特定のタンパク質を持つがん細胞を発見し、攻撃するようになる。

2 マイルストーン収入
契約上、研究開発の目標(マイルストーン)を予め決めておき、目標を達成した機に支払われる対価。

3再生医療用iPS細胞ストック
CiRAでは、HLA(ヒト白血球抗原)の型をホモ接合体(免疫拒絶反応が起きにくい組み合わせ)の細胞を有する健康なドナーから採取した皮膚や血液(末梢血・臍帯血)の細胞からiPS細胞を作製し、あらかじめ様々な品質評価を行った上で、再生医療に使用可能と判断できるiPS細胞株を保存する「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」を2013年度より実施している。

4CD19
免疫細胞の一種であるB細胞に特異的に発現している細胞表面マーカー。