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難しい技術を楽しいアナロジーで伝える | 武田薬品

アイスクリームのコーンを手で持っている様子

難しい技術を楽しいアナロジーで伝える

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March 28, 2024

美味しい食事に楽しい会話。にもかかわらず、クリストフ・ピステクは少しがっかりしていました。

クリストフ・ピステクは10月、米国ロードアイランド州ニューポートを訪れました。タケダR&Dリーダーシップサミットで、製造における今後の人工知能(AI)活用について、世界中から集まった仲間にプレゼンするためです。そして、そのウェルカムディナーで、お気に入りのデザートが出てくることを期待していました。

「食事の皿が下げられデザートが運ばれてきましたが、そこにジェラートはなく、私はがっくりと肩を落としました。毎日ジェラートを食べたいと思うほど、大好きなのです」

 そのジェラートへの想いは、ディナーが終わっても消えることはありませんでした。ホテルに戻り、翌日に行う発表資料と原稿を見直しているときも、心の中はジェラートでいっぱいでした。

低分子薬の製造では、混合時においてペーストの崩壊や過度な蓄積を防ぐために原薬を乾燥させるプロセスがあり、そこにはAI技術が活用されていると、クリストフは話します。

ジェラート
「そのとき、低分子薬の製造過程には、ジェラート作りとまったく同じステップがあることに気づきました」と、Pharmaceutical Sciences でサステナビリティ&テクノロジーのヘッドを務めるクリストフは話します。「製造では、とがった棒状の物を機械につけて使います。その棒状のものが壁のペーストを削ぎ落し、凍結を防いでいるのです。原薬が崩壊しないよう、一定のスピードで動かす必要があります。そして、ジェラート作りにも同じ工程があります。しかも人の目で監視しておく必要があり、自動化することはできません。ジェラートにせよ、医薬品にせよ、優れた製品を生み出すには、絶妙なバランス調整が必要なのです」

一方で、ジェラートと医薬品でまったく異なる点があると、クリストフは笑みを浮かべて指摘します。それはコストです。

「ジェラートを作るコストは約20ドルで済むでしょう。しかし、医薬品の製造にかかるコストはもっと大きいのです」

誰にとっても親しみやすいように


発表前日のホテルの部屋に話を戻します。クリストフ・ピステクは最終的に準備した発表資料を使わないことにしました。即興でプレゼンに臨むことにしたのです。

「準備した原稿は、科学的な内容を細かく説明しすぎていました。これでは聴く人の心に響かないと思ったのです。できるだけシンプルなプレゼンにしようと決めました」

大切なのは、プレゼンの最初から聴く人に親しみを感じてもらうことだと、クリストフは述べています。

「食べ物の話題は、ほとんどの人にとって親しみやすいものです。難しくて複雑な話から始めたら、聴衆の心を掴めないでしょう。最初に驚きを与えたり、笑いをとったりすれば、彼らの心を掴めるはずです」

R&D Business Productivity and Efficiencyプログラムのヘッドを務めるポーラ・ギルデルトは、翌日のクリストフのプレゼンを聴きました。ポーラは、クリストフがやろうとしていることがすぐにわかりました。低分子薬の製造工程を、ジェラート作りに例えて説明しようとしたのです。

「彼の説明は絶妙でした」と、ポーラは語ります。「非常に複雑なテーマを、親しみやすい例に置き換え、聴衆の関心を惹きつけたのです。アナロジーをうまく使った好例でした」

タケダに息づく文化


発表直前にプレゼンの方向性を変える原動力になったのは、タケダの200年以上にわたる歴史だと、クリストフは話します。

「タケダは、さまざまなイノベーションを起こすことを従業員に奨励している企業です。少し型破りなプレゼンを行うことも、まったく心配ありませんでした。リーダーたちが私を信頼している姿勢を示していたからです。信頼は、200年以上前からタケダに息づいている文化です。そしてそれは、従業員から医療関係者、そして患者さんに至るまで、あらゆる人々のメリットとなっています」

クリストフのプレゼンテーションの様子

「信頼は、200年以上前からタケダに息づいている文化です。そしてそれは、従業員から医療関係者、そして患者さんに至るまで、あらゆる人々のメリットとなっています」

クリストフ・ピステク

クリストフは、土壇場でプレゼン内容を変更することに不安はなかったと振り返ります。それは、「ジェラート」を使った説明が効果的だとわかっていたからです。自分の両親を含め、製薬業界以外の人に説明することにも慣れていました。

 「両親にはいつも、自分の仕事を理解するには、秘伝の美味しいレシピを大切に守り続けているおばあちゃんを思い浮かべてほしいと説明していました。その料理を作れるのはそのおばあちゃんだけで、方法も変えられないし大量に作ることは難しいような状態を想像してほしいと。同じ材料が手に入らないこともあれば、同じ鍋がなかったり、何十年もの経験が求められたりするケースもあるでしょう。そして、それは製薬にもおおむね当てはまります。私たちはそのレシピ用いて、さまざまな工場で多くの作業担当者が製造できるように、しかも安全性と高い品質を確保した上で、製品として通用するレベルに仕上げられるようにしていく必要があるのです」

クリストフは次のプレゼンを楽しみにしていますが、「ジェラートの人」という固定イメージがついてしまうことは避けたいとも考えています。

「他の方法でも、聴く人に親しみやすさを感じてもらうことはできるはずです」と、クリストフは述べます。「例えば、ラザニアは私の得意料理なので、次回はその方向でいくかもしれません」