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iPS細胞技術を推進する「輪」と「和」

T-CiRA Organoid Medicine Project
佐伯憲和


 “Sync”

基礎研究の成果をいかに社会に還元するか。システムバイオロジーを研究背景に持つ佐伯憲和はiPS細胞を通じて、患者さんと研究者、基礎と応用、アカデミアとインダストリーを同期させていく。


基礎研究の成果を社会に還元したい

「ミニ臓器」を活用し、難治性疾患の治療法開発・創薬へ

私たちT-CiRA Organoid Medicine Projectでは、主任研究者である武部貴則先生の主導のもと、iPS細胞から作製したミニ臓器を活用し、患者さんの体内で起きる現象を再現するための新システムの開発に取り組んでいます。
私は特に、全身の各臓器を繋ぐ血管に着目し、肝臓に特徴的な血管構造や血液細胞を含む新たなミニ臓器技術の開発を進めています。T-CiRAでは、この技術を薬の副作用として起こる薬剤性肝障害(DILI)を中心に、予防・治療方法の創出に応用したいと考えています。

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「誰がどう使うのか、社会にどんな影響があるか」―基礎研究とは違った魅力

私の研究は、情報科学と数学、実験生物学から得た大規模データを組み合わせた、システム生物学から始まり、細胞内の代謝をコンピュータ上で再現する、代謝シミュレーションに至ります。さらに、細胞の分化、臓器の発生に興味が広がり、iPS細胞とミニ臓器を用いた研究分野へと続いています。その中で様々な先進技術(AIやシーケンサー、iPS細胞など)に触れてきましたが、どの技術も多くの研究者に利用されているものの、成果が社会に還元されるまでには大きな時間のギャップがあると感じていました。

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基礎研究の成果をどのように社会に還元し、広めていくのか。次第にそれを重要なミッションとして考え始め、研究の傍ら、ライフサイエンス・IT企業やスタートアップ企業と協力し、遺伝子検査のサービス開発やAIを使った統合型データベースの開発、IoT技術を用いて得た情報をもとに人々の購買意欲や行動変容を促すチャットツール(AI対話型チャットボット)の開発にも携わるようになりました。これらは既存の技術を活用したものですが、仮説をもとに未知の現象や技術を構築する基礎研究とは異なり、「誰が」「どのように」「どれだけ使い」「どの程度社会に影響するか」を最優先としてデザインされたものです。iPS細胞技術の応用も同じ側面があり、将来的にどのように利用され、社会に還元されていくべきかを研究者自身が考える必要性があるところに強い魅力を感じています。

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私の原点

(上段)高校生の時、スポーツ技術の飲み込みに個人差があるのはなぜだろうと思ったこと。スポーツ科学を通じて、誰でもスポーツを楽しめる技術指導や、子供の運動神経発達に関する研究ができないかと思い、大学受験勉強に猛烈に取り組みました。(後段)学部1 年生時の初めての研究成果発表資料。スポーツ科学と並行してバイオロジーの勉強もしていましたが、慶應の冨田研究室で進められていたコンピュータとバイオロジーの融合研究にすっかり魅了されました。

患者さんとの有機的なつながり


iPS
細胞技術を中心に、患者さんたちと研究者の「輪」が生まれる

iPS細胞研究には、患者さんやご家族が大きな期待を寄せられており、研究者と交流されたり、細胞提供を通して研究に参画されたりすることもあります。iPS細胞技術を触媒に、患者さんたちと研究者が有機的につながる「輪」が生まれていることが魅力です。
皆さんからの期待やこうした有機的なつながりは、私たちの研究の大きな推進力になり、日々「患者さんにとって本当に役に立つ治療を開発する」という原点を思い出させてくれます。患者さんに治療法という成果を届けることはもちろんですが、研究の過程を共有することで、患者さんが前向きになることに少しでも貢献できていることを嬉しく感じています。

専門家の「和」で「マイiPS細胞」を安全に活用できる未来を創る

iPS細胞技術の社会還元について話を移すと、究極的な目標は「患者さん1人1人に合った治療法を広く届ける」ことにあります。その一つの方法として、個人個人の細胞から作製したiPS細胞―「マイiPS細胞」を低コストで作製できる技術開発が、京都大学iPS細胞研究財団を中心に進められています。今後、より多くの人のiPS細胞が作製・貯蔵されると、その厳密な管理と適切な使用が今以上に求められることになります。

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iPS細胞はただの「物」ではなく、ドナーさんの遺伝情報や病歴などを含む、個人情報の塊です。安全な活用には、それを使う医学研究者や医師だけではなく、ビッグデータの管理・整備・マイニングのための情報科学の専門家や、安全、迅速そして安定的に細胞を取り扱う装置を開発する機械工学の専門家など、多様なスキルを持つ専門家たちと協働する必要があります。さらに、これらの専門家を結びつけ、どの技術、どのアイディアとシナジーが生まれるか見極めるためには、分野横断型のスキルと経験を身につけた「ハブ」となる研究者が今後ますます必要になると考えています。分野に縛られた考え方やチームビルディングの常識を打ち破って課題に取り組むべきだと強く感じています。

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iPS細胞技術と未来都市の関係

iPS細胞技術が社会に浸透すれば、iPS細胞を介して各個人に最適化した医療サービスを提供することも可能になるでしょう。近年、国内外で構想化されているオートモビリティや遠隔医療などをAIとIoTを介して生活に組み込んだ「データ横断型都市」に最近、興味を持っているのですが、iPS細胞技術がこうした未来都市の重要な医療情報として個人を結びつける時代も到来するでしょう。iPS細胞と未来都市開発、一見関連が薄そうですが、どちらにおいても、膨大な個人情報を含むリソースを分野横断型に利用するには、情報管理体制を整えつつも、柔軟に利用できるデジタルプラットフォーム(都市OS)の構築が必須ですし、親和性も高いのではと考えています。そのためにも、多様な専門家集団がチームとして課題解決にあたる必要性を強く感じています。

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私にとってのT-CiRA

最近、私自身が発信しているバイオロジーのスマート化( 誰でも利用可能なaffordable & accessible な研究成果) を当てはめているのですが、基礎研究から創薬・治療法開発への速やかな移行が可能なT-CiRA もスマートな枠組みの1つかなと考えています。

製薬現場での研究だからこそ治療法開発をより効率的に行える

私にとってT-CiRAは、大きなチャレンジができる場所です。治療法開発の点では、創薬現場での研究だからこそ、より効率的に行うことができると同時に、T-CiRAは基礎研究も大事にしているので、基礎研究者としてありがたく、やりがいを感じています。アカデミア側も、企業の研究者らとタッグを組むことで、サイエンスだけでなくビジネスの観点からも研究開発を捉えることができるはずです。

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研究室に籠り、研究に邁進することも大切なのですが、爆発的に多様化していく研究課題に対処し、速やかに社会還元するためには、積極的に外の観点を取り入れる必要があります。T-CiRAのような取組みが広がることで、私を含め多くの若い研究者が様々な視点から学びを深め、それが未来の研究の形を作り上げていく推進力になるといいですね。

iPS細胞技術によって生まれる人の「輪」と、その社会還元に必要な専門家同士の「和」――今後研究者としてキャリアを築いていく上でも、その視点はずっと大事に持ち続け、T-CiRAの枠組みを超えて、様々な課題にチャレンジしたいです。

これから仲間になる方へ

Making visible
( あなたの新しい視点や研究成果を” 見える化" しよう)

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PROFILE

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佐伯憲和(さいきのりかず)

東京医科歯科大学 総合研究機構先端医歯工学創成部門創生医学コンソーシアム プロジェクト助教、医科学博士。2018年よりT-CiRA Organoid Medicineプロジェクトに参画。理論・情報解析・実験それぞれの技術を多角的に利用して,創薬・個別化医療・移植治療に向けたオルガノイドプラットフォームの開発を進めている。主な専門分野は幹細胞生物学、血液血管生物学、システム生物学など。その他、デジタル、AI、IoTを利用した、ライフサイエンスをSmart / Affordable / Accessibleにするためのシステム開発活動も展開中。