アクセシビリティ機能を有効化アクセシビリティ機能を有効化

国籍や国境を越えて、世界の研究者をつなぎたい

李 紅梅(リサ)
Research and Development(取材当時)

国内の研究拠点、湘南ヘルスイノベーションパーク (湘南アイパーク)内のニューロサイエンス ドラッグディスカバリーユニットで幹細胞の研究をするリサは、中国の吉林省出身だ。大連の大学の工学部で学んでいたときに日本の最先端技術に触れて来日を決意。日本語学校でゼロから日本語を学んだのち、大学と大学院、博士課程までを日本で過ごした。その後、専門のiPS細胞や希少疾患の研究を行うためにボストンに渡り、博士研究員(ポスドク)として過ごしていたときに現在の上司と出会い、「まさに自分がやりたい研究内容」だと感じてタケダに入社を決める。韓国系中国人で、人生の半分以上を日本で過ごし、米国で研究した経験から、韓国語、中国語、英語、日本語の4か国語を操るリサは、研究内容はもちろん、多様性豊かな職場で同僚や社外の研究員を積極的につないでコミュニティを育てることができる環境を「とても気に入っています」と話す。

国籍の違いを感じない、多様性が浸透している職場

リサの職場は湘南アイパーク内にある。湘南アイパークは2018年にタケダが湘南研究所を開放することにより設立された、企業発のサイエンスパークだ。この環境を生かして、リサは社内外の研究者と積極的に交流を図っている。タケダに入社して3年。入社前は、初めての民間企業での勤務ということで、かなり緊張したという。実際に入ってみて驚いたのは、「日本企業でありながら、かなりグローバル化が進んでいたこと」。

「率直に、従業員の皆さんが、とてもオープンマインドだなと感じました。他の日本企業でもグローバル化が進んでいますが、そのなかでも、トップクラスで多様性が実現されていると思います」と話す。彼女にとっては、国籍というよりも、むしろアイデンティティの認識の方が大事なのだという。「国籍は中国ですが、人生の大半は日本で過ごしています。家族は韓国に住んでいますので韓国ともつながりがあり、アメリカに住んで働いた経験もあります。日本の友人には、日本人の感覚に近いよねと言われることも多いですが、自分は自分なので、カテゴリー分けをしなくてもいいと思っています。多様性を自然に受け入れてくれる今の職場環境は、本当に居心地が良いです」と話してくれた。

湘南にいながら、世界の仲間と共に働く

湘南のラボ(研究所)では日本人の同僚が多いため、主に日本語で仕事をしている。同時進行でいくつか参加しているグローバルプロジェクトではオンライン会議が主流となるので、主に英語を使う。欧州や米国のプロジェクトの案件も担当することが多く、多様なチームメンバーが参加するため、中国語ではなく英語でやり取りを行うとのこと。「もともと、研究をするにあたっては世界中の研究論文を読みますし、自身の発表も英語です。最先端の研究と情報共有の場では英語が主要言語になります」。
米国のボストンとサンディエゴ、欧州にいる科学者と協力するには、効率よくコミュニケーションを取ることができるオンラインツールが欠かせないという。「世界各地にいる仲間とプロジェクトを進めるには、時差への対応は必須。全員で時間を調整するほか、積極的にコラボレーションツールを活用しています。どうしても業務時間外に打ち合わせが発生してしまう場合は、次の日にフレックスを活用して調整しています」と、デジタル環境が整っていることも大事な要素だと話す。グローバルチームでの活動をうまくまとめていく秘訣を聞くと、「例えば、打ち合わせを設定するときも、スケジュールにボストン、日本、サンディエゴの時間を同時に表示して、常に仲間の時間帯を意識するなど、お互いの生活スタイルを尊重することを心がけています。大切なのは互いの立場や考え方の違いを理解し、相手をリスペクトする気持ちだと思います」と語ってくれた。

研究者をつないで、もっと医療に貢献したい

社内において世界各地の研究者仲間をつなぎ、コミュニティを作り上げている一方、ラボがある湘南アイパークに入居している他企業の研究員や外国人ネットワークとも親交を深めている。高いコミュニケーション能力と積極性を併せ持つリサだが、意外にも昔は消極的なタイプだったという。
「中国にいた頃は無口なタイプでした。変わったきっかけは日本語の学習です。とにかく日本語で話し、言葉を覚えて使ってみる必要があったので、自然とおしゃべりになりました」。自らが外国語の習得に苦労した経験から、日本語が苦手な外国人の同僚をみると、ついサポートしたくなるそう。「私は外国人の立場も、日本人の考え方もわかるので、両者の懸け橋になりたいです」。

昨年には、ボストン、サンディエゴ、湘南の3か所の研究施設にいる研究員をつなぐ社内プロジェクトの推進役を務めた。日本と米国メンバーの交流を深め、より円滑な意思疎通を促した。「ニューロサイエンスは日本側の人員も多いので、湘南で働く外国人や米国のチームをつなげたり、困っていることを吸い上げて解決の手助けをしたりしました。日本の人と働くときに、外国人が感じる戸惑いには共通点も多いです。私も日本に来た頃に経験したのでよくわかります。日本には『暗黙の了解』的な文化があります。言わなくてもわかるでしょ、というもので、良い悪いではなく、日本の社会に根付いているものだと思います。それが外国の人には最初はなかなかわからないのです」。自らも同様の経験のあるリサは、日本の人たちにそれを説明し、外国人は「言わなければわからない」と思っているので言葉にして説明してあげてほしいと話し、理解を求めている。「言葉にしてきちんと伝える、確認することが大切です。自分が思っていたことと違っていたということが、仕事の場面では支障になることもある。日本の人もそれが当たり前になっているだけで、聞けば丁寧に話してくれますので、コミュニケーションの大切さを改めて感じていますし、それがより良い成果につながり、ひいては医療に貢献できると思っています」。

メンター制度や研修を活用 キャリア設計やスキルアップに生かす

リサは自身のキャリア設計にも意欲的だ。社内外の研修機会も積極的に活用している。「研修は年に2、3回は受けています。社内の人事制度を使うほか、湘南アイパーク全体での研修機会もあります。英語によるファシリテーション技術の研修は面白かったですし、メンター制度も活用しています。私のメンターは別の部門の人で、とても経験豊富なシニアの人です。深い示唆を与えてくれるので、今後のキャリアを考える上で良い指針をもらいました。自分に合った研修を見つけるためには、常にアンテナを張っていることも大事だと思います」。

今後のキャリア設計を聞くと、「タケダに入ってからの3年間に、社内外、国内外の連携がスムーズにできるようになりました。そのなかで気が付いたのは、自分はプロジェクトを進めるのが好きだということです。人をまとめる力やリーダーシップ、マネジメント能力をもっと身に付けて、プロジェクトを成功に導くことができる人になりたいと思います。基礎研究も大事にしながら、いずれは臨床により近い、グローバルプロジェクトに挑戦したいと思っています」と語ってくれた。リサのさらなる活躍に期待したい。